歯科(口腔外科)の紹介
歯科(口腔外科)の紹介
犬猫の口の中の病気を診察する科です。
その中でも歯周病にかかる子たちはとても多く、2歳以上の犬猫たちの70%以上が歯周病になっているとも言われています。歯周病は感染症であり、口の中の細菌が全身へ運ばれてしまう恐ろしい病気です。歯科の検査や治療は人と異なり全身麻酔をしながらの実施となりますが、全身麻酔の必要性もここでお知らせしていきたいと思います。
歯科・口腔外科の病気
歯周病、歯の病気(破折、変色)、口蓋裂、顎骨折、軟口蓋過長症、口腔内腫瘍など
当院の歯科処置の特徴
「歯石取りをして見た目をきれいにする処置」だけでは口臭はなくなりません。なぜ口臭があるのか、口の状態がどうなっているのかを、専用の機器・設備を使用することにより「目に見えない部分の病態」を把握することができます。当院の歯科処置により口臭のない生活ができるようになることを目標とし、犬猫の健康の維持をサポートしていきたいと考えております。もちろん歯科処置をした後の口のケアに関しましても指導させていただきます。
目に見えない部分の病態を改善するために、以下に記載する歯科処置に特化した設備があります。
歯科処置専用ルーム |
歯科レントゲン照射機 (929 ポータブルデンタル照射機) |
動物用歯科ユニット Airvets DC52 |
歯科処置の際に全身麻酔が必要となる理由
- 犬猫を怖がらせないようにするため。
(歯科器具が歯や口に触れたり、器具を口の中にいれられるのはイヤなんです!) - 歯垢や歯石、洗浄した水などを飲み込んだり、誤嚥したりすることを防ぐため。
- 口の中の精査 (検査 を実施するため。
- 無理な抜歯による顎の骨の骨折や、歯根の残痕を防ぐため。
当院での歯科処置の流れ
1.口腔内の視診、歯の検診 : 麻酔なしの状態での評価 |
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口唇をめくり、歯の咬合や歯肉の状態、歯石の沈着の程度を診ます。 |
2.歯周 検査、歯科レントゲン検査 : 麻酔下での評価 |
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歯周検査 プローブという器具で、歯肉溝(歯周ポケット)の深さを測定します。 |
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ポータブルデンタル |
デジタルフィルム |
歯科レントゲン検査 |
この麻酔下での検査と歯の実際の状態(歯肉炎や歯の動揺など)より歯周病の治療方法について検討し、処置に入っていきます。
歯周病がない場合
(歯周病はあるが、軽度な場合)
3.スケーリング(歯石と歯垢の除去)
超音波スケーラーを用いて歯垢・歯石を除去します。
また超音波スケーラーで除去できない部分などは鎌型ハンドスケーラーにて対処しています。
*必要に応じて
ルートプレーニング (歯根面の清掃
キュレッタージ(歯肉縁下 の 掻爬)
などの歯周治療、歯周外科治療も実施します。
4.ポリッシング
高速回転するブラシに研磨剤をつけて歯の表面を磨き、表面をツルツルにします。
歯周病がある場合
(歯周病が重度な場合)
抜歯処置
歯周病が重度の場合や歯周病は中程度だがその後の管理ができない場合は、歯周病の改善を目的に抜歯処置をします。
抜歯の手順
① 抜歯
② 抜歯窩の洗浄、腐肉の切除
③ 縫合処置
*抜歯をしない歯に関しては、
左記同様にスケーリングやポリッシングの処置を実施します。
*抜歯をしない歯に関しては、
上記同様にスケーリングやポリッシングの処置を実施します。
5.処置後
基本的には当日に退院予定です。 |
処置前 |
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処置後 |
実績
1.頬が腫れてしまったミニチュア・ダックスフンド(悪性黒色腫)
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左の写真の丸印の部分が腫れています。口の中を確認したところ、右の写真のように、奥歯の横に5cm 大のしこりが形成されていました。 このしこりは、検査によって悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)と診断されました。
上の写真の丸印の部分が腫れています。口の中を確認したところ、下の写真のように、奥歯の横に5cm 大のしこりが形成されていました。 このしこりは、検査によって悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)と診断されました。
このしこりは口の中に発生する腫瘍の中でも発生が多いもので、放っておくとリンパ節や肺などに転移を起こしてしまう悪性の腫瘍です。手術だけで腫瘍がとりきれない場合には手術後に放射線治療や抗がん剤の投薬を実施することもあります。
今回の患者様は 17 歳と高齢ではありましたが、飼い主様が手術を選択していただいたので、上顎の一部とともにしこりの切除を実施しました。高齢のため麻酔も心配でしたが、飼い主様のご協力もあり無事に手術を終えて、顔の腫れもとれて食欲も出てくれています。 |
2.歯肉が腫れているチワックス(歯原性嚢胞)
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左の写真の黄色矢印の部分が腫れています。口の中を確認したところ、右の写真のように、犬歯の上の部分がプヨプヨした状態で腫れていました。この場所を全身麻酔下にて検査をしたところ、下記のような状態であることがわかりました。
上の写真の黄色矢印の部分が腫れています。口の中を確認したところ、下の写真のように、犬歯の上の部分がプヨプヨした状態で腫れていました。この場所を全身麻酔下にて検査をしたところ、下記のような状態であることがわかりました。
歯科レントゲン画像 |
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ブヨブヨしていた原因は「嚢胞」と呼ばれる液体がたまったものであり、この子の場合は「埋伏歯」が原因で嚢胞が発生していましたので、「歯原性嚢胞」と診断しました。埋伏歯とは、文字通り歯肉の下に埋まっている歯のことで、正常に歯が生えなかった歯のことを言います。この埋伏歯があるかどうかは見た目だけでは分からず、歯科レントゲンや CT 検査などの画像診断を実施しないと診断ができません。また、埋伏歯が存在することで、上記のような歯原性嚢胞を形成することがあり、放っておくと顎の骨を溶かすように大きくなってきます。この子も嚢胞 のせいで顎の骨が溶かされていました。溶けている部分の顎の骨は完全に再生しませんが、これ以上悪化させないために外科手術にて嚢胞の切除と、抜歯処置を実施しました。現在、嚢胞が再発しないか経過を見させていただいております。
3.鼻出血のフレンチ・ブルドッグ(口腔鼻腔瘻管)
鼻血の原因には、鼻の中のしこり(鼻腔内腫瘍)や、鼻の中の感染症が原因となることもありますが、口の中の病気で鼻血が出ることもあります。口の中と鼻の中は実はかなり近く存在し、特に歯の根っこの部分はかなり鼻に近いため、歯周病などの口の病気が悪化します と、お口と鼻の中がつながる口腔鼻腔瘻管になることもあります。口腔鼻腔瘻管とは、文字通りお口と鼻とがつながる病態で、口の中にいる細菌などの病原菌が鼻の中に容易に感染してしまう状態です。その結果として鼻水が出たり、鼻血、くしゃみが出たりすることもあります。
このフレンチ・ブルちゃんの場合は、鼻血が主訴でしたので、鼻の中にしこりができていないかどうかを CT 検査にて診断し、その際に口の中からの異常のせいで口腔鼻腔瘻管があることがわかりました。口腔鼻腔瘻管の診断に関しては、鎮静や全身麻酔下で「歯周プローブ」という器具を使用することで診断ができます。(左写真) このフレンチ・ブルちゃんの場合は、鼻血が主訴でしたので、鼻の中にしこりができていないかどうかを CT 検査にて診断し、その際に口の中からの異常のせいで口腔鼻腔瘻管があることがわかりました。口腔鼻腔瘻管の診断に関しては、鎮静や全身麻酔下で「歯周プローブ」という器具を使用することで診断ができます。(上写真) |
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上左写真がスケーリングをした後の口腔鼻腔瘻管になっている部分です。歯と歯のすき間がかなり広がり、見た目にも大きな穴が空いているようにも見えます。実際にその部分の抜歯をしますと、上右写真のようにたくさんの膿が溜まっていて、それを全て掻き出している状態です。
上写真がスケーリングをした後の口腔鼻腔瘻管になっている部分です。歯と歯のすき間がかなり広がり、見た目にも大きな穴が空いているようにも見えます。実際にその部分の抜歯をしますと、下写真のようにたくさんの膿が溜まっていて、それを全て掻き出している状態です。
この後には、口腔鼻腔瘻管が再発しないように口腔粘膜を利用して穴を縫合(フラップ縫合)して治療終了としました。(左写真) この後には、口腔鼻腔瘻管が再発しないように口腔粘膜を利用して穴を縫合(フラップ縫合)して治療終了としました。(上写真) |
4.頬に傷ができたトイ・プードル
頬に傷ができるときには、大きく分けて①皮膚自体に問題がある場合と、②皮膚の下に問題がある場合の2つの原因があります。皮膚の下に原因がある場合には、その近くに歯根(歯の根)があるため歯根に問題が起きたことにより皮膚に問題が起きる場合があります。
このプードルちゃんの場合、右眼の下に傷があるのに気づき来院されました。歯みがきもされていて、見た目では歯が原因とも言い切れない状況でしたので、抗生物質の内服と表面の消毒により治療をしました。しかしながら改善は認められませんでした。 そのため、全身麻酔下にて歯周プローブによる歯周ポケットの評価と歯科レントゲンによる歯根部の評価 を実施しました。 |
歯周ポケットの評価と歯科レントゲン検査
見た目は歯肉炎もなくキレイでしたが、歯周プローブを用いると一箇所だけ歯周プローブが入り込む場所がありました。その場所の歯科レントゲン検査を実施したところ、下記の写真のようになりました。
第4前臼歯の近心根の周囲の骨は歯周病により溶けてしまいました。歯根のまわりがどのようになっているかの評価に関しては、 CT 検査を実施するか、このような歯科レントゲン検査を実施しないと判断ができません。
以上の検査により、頬に傷ができていたのは、この第4前臼歯が原因であり、そのせいで「外歯瘻」と呼ばれる歯周病により膿(うみ)が出てくるような病態になっていたことが診断されました。外歯瘻を起こすような状態になってしまった歯は、抜歯をせざるをえない状態であるため、この歯を抜歯し、手術を終了しました。